読書感想文「賤ヶ岳」

• 2010年5月3日

 


GW最終日。晴天続きにも関わらず、結局、本ばかり読んでました…。「買うだけ買って、なかなか読めない」、いわゆる「積読(つんどく)」派としては、この時とばかりに読み漁ってしまうのです(笑)。そして、つい先程読み終わったのが、岡田秀文の「賤ヶ岳」です。
 最近、『戦国時代モノ』の新刊を手にするたびに、「それはさすがに有り得ない!」という作者の独断的な解釈で書かれた作品ばかりだったので、この期に及んで「賤ヶ岳を題材にした書き下ろし作品」が出版されると知っても、あまり期待はしていませんでした(謝)。作者の岡田秀文氏は、代表作「太閤暗殺(石川五右衛門が豊臣秀吉の暗殺を企てる話)」など、史実と異なる「歴史エンターテイメント」系の作品が多くて、正直、この「賤ヶ岳」も同様のノリだろうと、すっかり決め付けていました。
 ところがどっこい!冒頭から史実を丁寧に準えていく「本格歴史小説」の香りがプンプンです。岡田さん、一体どうしちゃったんですか?いつものミステリー満載の展開を期待した読者は、最初から「拍子抜け」させられてしまいます。
 内容は、「惟任謀反!の知らせが、備中高松城を囲んでいる秀吉の陣に紛れ込む」という場面に始まり、柴田勝家と「織田家の相続権」を決める「賤ヶ岳の戦い」に至るまでの約3年間の「記録」です。信長の突然の死という現実を「千歳一隅の好機」と捉え的確に行動した秀吉と対応が遅れてしまった勝家の対比を軸に、秀吉が「天下様」に上り詰めて行く過程が、登場人物たちの「心理描写」を通じて詳細に語られて行きます。「秀吉と勝家のどちらにつくのか?」、織田家の家臣だけでなく、毛利、徳川、上杉などの諸大名も成り行きを見守る姿は、その後の「関ヶ原の戦い」でも当事者が「徳川家康VS石田三成」に変わるだけで、現代まで脈々と受け継がれている「勝ち組に乗る」=「名を残す」という「日本人的な思想」が描かれています。普遍なんですね。
 そして「負け組」の織田信孝が残した『昔より 主を討つ身の 野間なれば 報いを待てや 羽柴筑前』という辞世の句(因みに、「野間」は、信孝が自害した場所の地名)に、「敗者の現実」を目の当たりにさせられます。

 岡田氏がこれまでの作風をがらりと変えて本格歴史小説の王道を行く作品を仕上げたのは、「歴史小説家としての矜持」によるのだと感じました。間違いなく「歴史の面白さ」を教えてくれる力作です!